マズローの欲求階層説から考える生活援助


特養入居者のニーズを心理学者マズローの「欲求階層説」(図表)に照らし合わせて考え、日ごろのサービスを構築してみると参考になります。

まず、入居が必要な状態になった時期から入居した初期は第一階層の「生理的欲求」への対応です。

これは生きる上で必要な根源的な衣食住などに対する欲求といわれています。
高齢期を迎え、病気や転倒などの家庭内事故をきっかけに心身に障がいをもつリスクが高まります。
たとえば、今まで住んできた自宅において、一人で食事や排泄をすることが少しずつ難しくなっていく。
最初は介護保険の在宅サービスを利用して、何とか頑張って自宅での生活を継続してみます。
しかし、だんだん衰えていくという不安に苛まれ、日々「これからどうして生きていこうか」と葛藤するようになります。
こんな状態が長く続くことによって、心身のダメージは大きくなります。
高齢者本人だけではなく、同居する家族の大きな「心身の負担となっていきます。離れて暮らす家族にも影響を与えます。
ところが、在宅から特養へ入居するとどうなるでしょう。この不安や負担に対する「生理的欲求」は、すぐに満たされることとなります。
特養入居それ自体が欲求を満たすことになるわけです。

しかし、入居後しばらくすると「安全の欲求」という第二階層に入ります。

身体機能に合わせて安心してお風呂に入りたい、車イス利用中に転ばないように移動したいなど、安全・安心の維持への対応が求められます。
その後、この二つめの物質的な欲求も満たされるようになると、精神的な欲求へと変わり始めます。

第三階層は「親和欲求」といわれるもので、集団に帰属し、他者との関わりを求める社会的欲求です。
特養も共同生活の場です。職員の言葉遣いへの不満や、入居者同士のトラブル発生もこの欲求が起因していると考えることができます。 

さて、特養の生活も数カ月経ち、安定してくると、他者から認められたいという第四階層の「承認欲求」へと進みます。
私たちはおひとりお一人をきちんとお名前で声かけをし、いつでも「あなたを大切に思う」というユニットケアの基本思想である「個別ケア」の専門性をもって接することが必要になってきます。

これが満たされると、欲求はさらに高まり、第五階層の「自己実現欲求」へ移行していきます。
障がいがあっても自分の残存能力を発揮して創造的活動をしたいという最も上位にあたるものです。施設で暮らす高齢者に「どう生きたいか」という質問をすると「人の役に立ちたい」と答える方がたくさんいらっしゃることに驚きます。
最初は「家族へ迷惑をかけたくない」というネガティブな発言が、段階を経て人間の存在価値を示すポジティブな表現へと変わっていくのです。

さらに上の欲求「看取り」に応える

私は、特養で暮らす高齢者には、「自己実現欲求」のさらに上の欲求が存在しているように感じています。

それは「後悔なく人生の最期を迎える」という「死」に対する欲求階層があるのではないか、と考えています。
あるいは自己実現欲求の理想的な到達点といってよいのかも知れません。

この考え方は、特養の看取り援助によって人生の幕を閉じられた入居者に教えられ、援助を重ねるたびに確信に変わってきました。

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