Kaigoは投資〜介護報酬改定に向けた考え方
2023/11/12
Kaigoはコストではなく
投資であるという見方
介護報酬改定に向けた再考
(医療法人社団悠翔会理事長/佐々木淳在宅医師のコメントを引用)
Kaigoはコストであり、高齢者がお金がかかる人であるという考え方や仕組みではなく
未来を豊かにする付加価値を提供してくれる。
そう思考を変えて新しいシステムを構築すると未来が違って見えてくるかもしれません。
これからの社会を支える若い人とエイジングした高齢者の方々が
いかにワンチームとなって自分が住むまちから日本を支えていくことができるか?
介護保険制度の枠組みを超えた視点から思考と戦略づくり
そう捉え直すことによって
ワクワクしてきました。
長生きの時代をより良く生ききる
ウエル・エイジング
介護は投資である
(佐々木淳さんFacebookより引用)
上野千鶴子さんにお声がけいただき、改定を控えた介護保険制度に関して、発言の機会をいただきました。
適正な介護報酬を確保し、介護保険サービスの持続可能性を確保すること。コストを理由に必要なケアが受けられない状況を回避すること。それが、経済全体の生産性を高め、社会保障の適正利用化を促進し、むしろ日本の社会経済の持続可能性の担保に資するのではないか、そんな意見を述べさせていただきました。
X(Twitter)などでは、高齢者医療や介護は、高齢者による若者の搾取だという意見があります。
しかし、働ける世代は医療や介護への依存度が低いし、医療や介護が必要になる人は働けない人だし、これを「搾取」と言われてしまうと、社会保障そのものが成り立たなくなります。
私たちはいつか必ず高齢者に、支えられる側になります。
多くの人は自分が平均寿命(男性81歳・女性87歳)くらいまでしか生きない、と勘違いされています。しかし、実際には社会保障費が高い!と文句が言える年齢まで生きられた人の多くはより長く生きます。65歳まで生きた人のうち、女性は6割が90歳まで、16%は100歳まで生きる。死亡数が最も多いのは、男性で86歳、女性で91歳。多くの人が85歳以上まで生きることになります。
そして、85歳以上まで生きると、多くの人は要介護状態、認知症とともに生きていくことになります。病気などで85歳まで生きられない人も、亡くなる前の一定期間は、やはり介護が必要になります。
ごく一部の「元気なときに突然死した」方々を除くと、ほとんどの人は人生の後半、最終段階でケアが必要な状態になるのです。
そして、介護が必要になった時、
多くの人は、家族の支えが弱い状況にあります。
現在、日本の世帯の17%は高齢単独、14%は老老世帯。かつてのような三世代同居は稀です。このような状況で、介護サービスの利用に制限がかかると何が起こるのか。在宅療養ならぬ「在宅放置」になる、あるいは、責任感の強い家族への負担となってのしかかることになります。
経産省の将来推計によると、2030年には家族介護者833万人に。そして、その約4割がビジネスケアラー(現役就労世代)となります。そして、彼らの離職や労働生産性の低下は、9兆円の経済損失を生じさせるとしています。
政府は「介護離職ゼロ」を掲げ、確かにビジネスケアラーを支える仕組みは充実してきました。しかし、介護離職による損失は、うち1兆円、残りは、その数十倍いるとされるビジネスケアラーの生産性の低下(約27%とされる)によるものです。
今後、30代・40代の生産性の高い世代のヤングケアラーが3倍以上になることが予想されています。
家族が、安心してケアを任せられる環境を作ることはとても重要だと思います。
そして、ケア力が不足すると、結局、そのしわ寄せは、医療にいくことになります。そして、医療によるケアは、介護によるケアよりも高額になります。
国民医療費48兆円。
うち6割を占める高齢者医療費。
その大部分が入院です。
比較的若く元気な高齢者の主たる入院理由は脳卒中とがんです。これらの病気は入院治療が必要で、そのコストも高額です。そして侵襲性もあるため、90歳以上の超高齢者に対しては積極的な治療が避けられる傾向があります。
しかし、日本では、年齢とともに医療費は右肩上がりで増えていきます。脳卒中やがん治療をしている世代よりも医療費の高い超高齢者。一体何にお金がかかっているのか。
肺炎や骨折などの脆弱性疾患の増加は要因の1つですが、無視できない割合で「社会的入院」がまだ無視できない割合で存在していることもわかっています。
全入院者に占める社会的入院者の割合が7.5%~18.4%、全入院医療費に占める社会的入院医療費の割合が6.9%~23.5%、全医療費に占める社会的入院医療費の割合が3.2%~10.9%、という報告もあります。
つまり、医療費のうち最大5兆円が介護のために支出されているということになります。
在宅ケアの充実は、入院を減らします。
在宅でケアを受けながら生活している要介護高齢者は、その脆弱性から急変のリスクが高い状態にあります。しかし、きちんと在宅ケアが提供できれば、急変を防ぎ、入院を減らすことができます。
例えば悠翔会では、常時8000人の在宅患者の療養支援を担当していますが、管理患者の平均入院日数は12日。ちなみに、在宅医療導入前の1年間の平均入院日数は42日。一人あたり30日の入院を減らしています。
つまり、在宅ケア体制の確保は、入院を減らし、社会保障費を削減できる可能性もあると思います。
介護保険サービスは、超高齢社会日本に必要不可欠な基盤的サービスであり、すべての国民がいずれ必要とするインフラ。「停電」「断水」は許されません。
介護保険サービスを維持するための費用は、「支出」ではなく社会経済活動維持のための「投資」、本来「介護の社会化」のためのものだったはずです。
そして、介護をケチれば、その負担は医療に回るだけ。同じコストがかけるのであれば、本人・社会にとって最適な選択肢を保証すべきです。
合理的な介護報酬の評価を含む介護保険サービスの充実は、日本の持続可能性を危うくするものではなく、日本の持続可能性を確保するために必要なものだと思います。
もちろん、医療や介護だけで生活を支えることはできません。地域生活を豊かにするための選択肢を増やしていくことは前提として重要だと思います。
そして、本人の幸せに資することのない医療介護コストはゼロを目指さなければなりません。そのためには、日頃からその人がどのような生活、どのような人生を望んでいるのか、対話を通じてしっかりと理解していくこともとても大切です。
しかし、私たちの暮らしを支えるエッセンシャルサービスである医療介護の安定供給体制がどうあるべきなのか、社会保障費の伸びを抑制することを目的化するのではなく、最適なバランスで医療と介護が提供された結果、社会資源の利用が適正化された、そんな発想を政策決定者の方々にはお願いしたいです。
もちろん、僕も現場を支える一人として、自らのサービスの財源が公共のものであることをしっかり認識し、費用対患者価値の高いケアを意識していきます。
YouTubeエイジングと介護の学校「利久のエイジング・サポート・チャンネル」
有意義なエイジングと介護の情報を分かりやすくお届けします。